花と昆虫との関係は生態系で最も重要な相互作用の一つである。昆虫は花蜜や花粉を得るために訪花し、植物の送粉を助ける。この花と昆虫との関係は現在では広く見られるが、その起源はそれほど古くない。昆虫はデボン紀(約4億年前)に地球上に出現したが、その頃、陸上に繁栄していたシダ植物は花を持たなかった。昆虫は、白亜紀(1億3500万年〜6500万年前)に起こった花を咲かせる種子植物の適応放散に伴って初めて訪花行動を進化させたのである。では、この訪花性の獲得はどのような行動や神経機構の変化により生じたのだろうか?この謎を明らかにするため、私たちは訪花性のカザリショウジョウバエ(カザリ)に着目して研究している。ショウジョウバエの多くは非訪花性で果実食や菌食であるが、カザリはそのような祖先の中から訪花行動と、花に依存した生活史を新たに獲得した。彼らは、モデル生物であるキイロショウジョウバエと近縁で、ゲノム編集や遺伝子導入が可能であり、訪花性の進化の神経機構を解明する上で良いモデルとなる。私たちは現在、カザリが何のためにどのような花を訪れるのか、またどのような感覚/神経機構で花を認識しているのか、その感覚機構が非訪花性の種と異なるのかを明らかにするため、野外観察や行動実験、神経系の種間比較やゲノム編集を用いた機能解析を行っている。本セミナーではこれらの成果を紹介し、昆虫の訪花性の進化をもたらした神経機構について議論したい。
Auchenorrhyncha (Hemiptera) contain some of economically important agricultural pests worldwide, including many invasive ones. The great diversity of some auchenorrhynchan families such as leafhoppers (Cicadellidae) and planthoppers (Delphacidae) corresponds to at least an equal, but often even greater diversity of their natural enemies, particularly egg parasitoids. Whereas during the past 100 years scientists were able to properly identify and study most of the major and some minor auchenorrhynchan pests, research on their egg parasitoids, which are mainly responsible for their natural control, either has been lagging behind significantly or outright nonexistent. Recent developments in the identification of egg parasitoids (Hymenoptera: Mymaridae and Trichogrammatidae) in the four economically important agroecosystems of rice, grapevines, okra, and tea in East Asia (mainly in Japan and Taiwan) are reviewed, along with their host associations, many of which being either newly established, updated, or corrected.
植物は昆虫などの植食者による被食を防ぐために、忌避性の揮発性化合物を放出する。一方で、一部のスペシャリスト昆虫は、これらの毒性化合物に対する耐性を進化させ、さらにはそれらを手掛かりとして宿主植物を効率的に探索することができる。どのようにして、スペシャリストはこのような毒性環境を利用可能としたのだろうか。本講演では、微生物を餌とするキイロショウジョウバエと、わさびを含むアブラナ科植物を宿主とするスペシャリストのキイロヒメショウジョウバエを比較対象とし、嗅覚行動実験や電気生理学的解析に加えて、近年注目されているAlphaFold2を用いたたんぱく質構造予測解析を通じて得られた知見を紹介する。これらのデータから、 毒性を持つ宿主植物ニッチへの急速な適応における分子遺伝学的基盤について考察する。さらに演者は最近、湿地環境に適応したショウジョウバエ近縁種の幼虫が水上で特異な行動を示すことを発見した。現在、この行動の詳細をDeepLabCutを用いて進めており、本講演ではこの解析結果とそれに基づいた適応的意義についても議論する。
昆虫は多彩な生活史を実現する過程で、種ごとに異なる行動パターンを獲得してきたと考えられる。本講演では、求愛・群れ形成・逃避の3つの行動に注目し、「昆虫の行動がいかに種ごとに多様化しているのか?」と「行動の多様性が脳や神経細胞の働きでどのように生じるのか?」について議論したい。
1)『プレゼント』を渡すハエの脳は他の虫と何が違うか?〜新規な求愛戦略の獲得をもたらす神経機構〜
2)花に住むショウジョウバエの群れ形成行動
3)四面楚歌をどう切り抜ける? ~アリの巣内部で生き抜くコオロギの逃避戦略~
配偶者を巡る同性間の競争は、植物から動物に至るまで多くの生物種で確認されており、特にメスを巡るオス同士の闘争は、古くから多くの研究者によって注目されてきた。オス間闘争は単に勝敗を決するだけでなく、その後のオスの繁殖戦略にも影響を与えることが知られている。こうした影響は、各種の繁殖生態に依存すると考えられており、その実態を体系的に明らかにするためには、多様な分類群にわたる研究が必要である。しかしながら、現在までに十分に研究されている種は限られているのが現状である。本講演では、非モデル動物であるジャイアントミルワームを用いた闘争実験を通じて、本種において確認された特異なオス間闘争を、性的二型、適応度、精子の観点から考察し、その進化的意義について解説する。